
誰もやらない未来を、ここから生み出す
「ルテニウム配線」が拓く
半導体の微細化が“AI時代”を支える
生成AI(人工知能)が普及するなか、デジタル機器の頭脳として、また記憶装置として用いられる半導体に求められる能力は加速度的に高まっています。そのなかで、半導体の性能を左右する部品の集積度を高める技術では“限界”を超えるための試行錯誤が行われており、最先端の半導体の開発現場では、電気の流れをコントロールする部品であるトランジスタの配線材料を従来の「銅」から、緻密な配線をしても抵抗値が低く信号伝送スピードの速い「ルテニウム」を採用する動きが始まっています。
半導体業界で高まる微細化ニーズ
フルヤ金属が開発・販売するスパッタリングターゲット※が近い将来、半導体製造の世界を一変させるかもしれません。
その背景にあるのが、半導体の微細化ニーズの爆発的な高まりです。
電子機器の進化は、制御や計算を担うCPUなどの「ロジック半導体」や、データを保存するDRAMなどの「メモリ半導体」の高集積化に支えられてきました。高集積化とは、小さな半導体基板により多くのトランジスタを高密度に積載することで半導体の性能を高めていくことです。この集積化の歴史は、2年ごとに約2倍の集積度を実現する「ムーアの法則」として知られており、現在まで半世紀にわたって生き続けています。
ところが現在、この高集積化を支える半導体製造における“微細化技術”には大きな課題が生じています。高集積化を実現するためには、トランジスタの回路パターンの配線幅を狭める微細化が必要となり、その線幅はこの20年で130nmから90nm、45nm、そして現在は10nmの時代に入ろうとしています。しかし、線幅が40nm以下になると、従来から配線材料として使われてきた銅配線では抵抗値が上昇。信号伝送の遅延が発生し、電導効率が極端に下がってしまうという大きな問題が生じているのです。さらに、ここ数年の生成AIの急速な進化によって、これからのAIが求める半導体の性能は、ムーアの法則を超える「4か月で2倍」の高集積化が必要になると言われています。
AIとムーアの法則の対比

「ムーアの法則」に則り、これまで約2年で2倍のペースで集積度が高まってきたが、AIが半導体に求める性能は約4か月で2倍のペースに高まっている。
こうしたなか、半導体メーカーや半導体製造装置メーカー各社は、半導体の材料や構造、製造プロセスなど、さまざまな視点で抵抗値の低減に向けた設計の見直しを行っています。そのなかで今、大きなスポットライトが当たっているのがルテニウムを用いた配線材料であり、当社はその製造に不可欠な「ルテニウムスパッタリングターゲット」を開発しています。
ルテニウム配線は、配線の低抵抗化のほか、高集積化を可能にする立体構造にも対応することから、将来は「銅」に置き換わる技術として大きな可能性を秘めています。
※ターゲット:スパッタリングなどの薄膜形成技術において、基板に層として堆積させるための材料。フルヤ金属は独自の高度な加工技術を用いて、ルテニウムを始めとする各種貴金属のターゲット材を製造している。
世界トップシェアを支える技術力をもとに
当社がルテニウム配線向けのスパッタリングターゲットに注目し始めたのは2010年代の前半です。それ以前に当社は、データを記憶するためのメモリ半導体「MRAM」の製造に用いるルテニウムスパッタリングターゲットの提供を開始していました。世界的な半導体メーカーが次世代半導体の実現に向けて巨額の開発費を投じるなか、ルテニウムの取り扱いに長けた当社に対してルテニウム配線向けのスパッタリングターゲット開発の打診が入ってきたのです。
半導体業界におけるルテニウム配線の基礎研究は2000年代初頭から始まっていましたが、量産レベルで半導体向けに高品質なルテニウムスパッタリングターゲットを手掛ける会社は2010年頃には存在していませんでした。
こうしたなか、早くからイリジウムやルテニウムの取扱いに特化し、ハードディスク向けルテニウムターゲットでトップシェアを持つ当社は、2012年に高純度なルテニウムを用いた300㎜ウェハー向けターゲット材の開発を開始。ルテニウムは“硬くて脆い”物性をもつ難加工材であることから、品質の高い高純度なターゲットを量産するのはリスクが大きく困難とされていましたが、当社はその課題を独自の技術で克服。こうした高品質なターゲット材を生産する能力は、半導体メーカーから高く評価されました。
こうして、当社は半導体に用いられる当社初のルテニウム配線向けのスパッタリングターゲット材の出荷を開始。最先端の研究開発体制を擁する世界的な半導体メーカーのほか、半導体製造装置メーカーや研究機関とともに、ルテニウム配線を用いた次世代半導体の実用化に向けた第一歩を踏み出しました。
実用化、量産化に向けた課題解決へ
配線幅の微細化に伴う抵抗値を低減させるうえで大きな能力を発揮するルテニウム配線ですが、その実用化――ルテニウム配線を用いた次世代半導体の量産化に向けてはまだいくつもの課題が立ちはだかっています。
そのため、顧客である大手半導体メーカー、製造装置メーカー、研究機関では半導体製造プロセスの課題解決へ向けて成膜条件の設定や製造装置の開発、前後の工程との統合最適化プロセスの構築などに努めています。こうした活動をサポートしていくため、当社は現在、顧客ごとの要望をきめ細かくヒアリングし、顧客課題の解決に貢献するスパッタリングターゲットの開発・製造に取り組んでいます。
また、これら製造プロセスの最適化は、ルテニウム配線の最大の課題であるコスト削減を視野に入れた取り組みでもあります。貴金属のなかでもとくに希少価値の高いルテニウムは、開発当初からコスト高が課題となっていましたが、近年はコロナ禍やウクライナ紛争などの地政学的リスクから、その価格は高騰しています。そこで当社は、顧客ニーズに対応した製品開発に加えて、当社のもつ金属精製・加工技術と高純度化技術を活用したリサイクル能力を拡張し、ルテニウムに適用。コスト対策と材料の安定供給体制の双方を強化していく計画です。
課題
- 素材が扱いづらく、加工が非常に難しい
- 希少性が高い
フルヤのソリューション
- 長年のルテニウム研究で素材特性を把握し、高度な加工を実現
- 独自のリサイクル技術で安定供給を実現

AI時代のメインストリーム製品として
ルテニウム配線向けスパッタリングターゲットは半導体の微細化実現へ向けた次世代材料の最有力候補と注目されています。今後、最先端のロジック半導体の世代交代にともなって段階的に半導体製品に組み込まれ、AI搭載電子機器向け半導体のメインストリームで活躍する製品になると期待されています。
世の中の産業機器やクルマ、家電製品、社会インフラまで、あらゆるモノが半導体センサーを通じてつながり、自動化・最適化されることで、より豊かで安心・安全・快適・便利な暮らしの基盤を実現する「AI時代」へ。その大きなトレンドのなか、当社は10年以上にわたって蓄積してきたスパッタリングターゲットの開発力と、製品出荷数の拡大に応じたリサイクル技術の高度化を通じて、品質とコストのバランスを高位で安定させたルテニウム配線の普及によって広く社会に貢献していきます。